『相談がある。半刻後に来てくれ』
そう告げられ伺候した、積水台
参上の声をかけるも、中からの
人払いをしているのか、取り次ぎの女御さえ出てこない
離れて立つ虎墳氏に目で問えば、軽く顎を引く
私は一瞬躊躇ったが、再度声を掛け、中へと入った
僅かに気配を感じる衝立を回り込み、そして思わず息を飲んだ
主上が眠っていた
長椅子から流れ落ちる緋色の髪
隙間から覗く細いうなじ
かすかに開いた紅唇
気配を殺して、その夢のような景色をしばし見つめる
やがて
誘惑のままに、私は円やかな頬に手を伸ばした
手を伸ばして、 だが、触れる寸前にそっと引く
一歩退き、目を閉じる
そしてゆっくりと深呼吸をしてから、私は王を起こすべく静かに声をかけた
触れたくて、でも触れたくなくて
(触れればもう、後戻りなど出来ないから)
2010.07.22