2012『十二国桜祭』の参加賞として頂いた、管理人・速世未生様の作品その1。
昨年頂いた『若木の誓い』の陽子視点の続編です。
桂桂の成長を温かく愛おしく見守る陽子の気持ちが伝わってくるお話でした。
未生様、ありがとうございました!
さくらさく
さくらさく
えがおさく
花ほころぶ
笑ほころぶ
ついに来たる
巣立ちのとき
今年も庭院の若木が花ほころばせた。陽子は咲き初めし桜花を見上げ、唇を緩める。そして、この花のように瑞々しい笑顔を思い浮かべた。
「さくらさく……」
蓬莱では、合格という意味を持つ言葉。弥生三月、陽子自身も、桜が咲きますように、と祈ったことがあった。
(陽子、受かったよ!)
桜開くように笑う顔が忘れられない。束の間、懐かしい思い出が次々と胸を過った。この若木のように、あっという間に陽子の背を追い越していった、弟のように可愛い少年。今は少学に通う、蘭桂。
(主上、私は、官吏になります)
お許しくださいますか、と膝をついたのは、小さな桂桂ではなかった。己の志を真摯に語る少年の顔に、温かな笑みが重なって見える。
蘭玉――。
幼かった小童はいつしか志高き少年へと成長していた。この宮を巣立っていった蘭桂は、頼もしい青年になっていくのだろう。この若木が今も尚すくすくと伸びているように。
「期待してるよ、蘭桂」
陽子の囁きに応えるかのように、若木は細い枝をそっと揺らしていた。