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やがてあふれ出ずるもの<終>
淡い半月の光を浴びながら、男は一人露台で酒を呑んでいた。
元々酒精の効きにくい体質だと自覚はあったが、今宵は特に酷い。
いくら呑んでも酔いは一向に訪れず、意識は冴えわたるばかりだった。
優雅な仕草で盃を呷ると、小卓に置きすぐに新たな酒を注ぐ。
小さな塗りの酒盃の中には、半月が映りこんでいた。
水面の揺れに合わせて姿の歪む月を、しばし見つめる。
琥珀の瞳に月を映しながら、男の目は違うものを見ていた。
半月ではなく真円の。
淡い黄色ではなく緋色の。
――輝く、太陽を――。
くっ、と皮肉気に唇を持ち上げると、男は再び一気に盃を干した。
ひりりと焼け付く感覚を味わうように喉を反らし、男は空に浮かんだ真の月を見た。
――まだ、大丈夫だ。
自らに呪をかけるようにそう呟いて。
男は自らの想いを、月の光と酒で封印した……。
<終>
2007.07.22