庭…おまけ



「…そういえば、あの時は本当にびっくりした」

ぽつりとした呟きが聞こえ、浩瀚は顔を上げた。

「ほら……昔、浩瀚が庭に私を探しに来たことがあっただろう?あの時、靴を履かせてくれた後に、その……足に接吻をしたじゃないか」

記憶が甦り、浩瀚は頷いた。

「はい。そのような事がございましたね」
「あの時は、景麒の契約よりも驚いたなって」

率直な少女の言葉に、浩瀚は苦笑を浮かべた。

「そんなに驚かせましたか?」
「うん。だって、優秀で冷静で、浮ついた言動なんて一切なかった冢宰が、いきなりあれだぞ?驚きもする」
「成程」

答えて、浩瀚は靴を履かせ終えた陽子の足を軽く持ち上げ、口付けた。

――ちょうど、あの日と同じように。

「それで、今はいかがです?」

ひざまづいたまま面白そうに見上げてくる男に、臥牀に腰掛けた陽子は憮然とした表情で、言い返した。

「もう……慣らされた」
「嬉しいお言葉ですね」
「すぐ触りたがる、存外助平な男だと分かったし」
「相手があなただからですよ」

さらりと流し、浩瀚は少女の華奢な足をそっと降ろすと、代わりにその手を取って、微笑んだ。

「――では、そろそろお召し替えを。そのしどけないお姿に、拙の助平心が再び疼き出す前に」

緩やかに着崩れた小衫の胸元を押さえた少女の、

「馬鹿!」

という声が、臥室に響き渡った。





                                                                          <終>

                                                                     2008.06.18

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