許可のお声に、扉を開け、室内へと進む。
目隠しの衝立を回り込んだ私の足は、その場で止まった。
ゆっくりと振り向いた女に、一瞬息を飲む。
美しく流れる紅の髪。
小麦色の肌に纏われた襦裙は、女王のそれより薄く、そして婀娜めいていた。
そう。
それはまさに、花娘の衣装。
常の凛とした女王とは全く異なる艶やかな花娘が、そこにいた。
動揺を辛うじて抑えこみ、口を開く。
「大層麗しいお姿。二重の驚きでございます」
――このような場所で、そのようなお姿で。
口にはしなかった言葉を、主は明敏に悟られた。
「……色々、事情があったんだ」
ここ数日孕んでいた緊張を感じさせぬ主上本来の口調に、内心ほっとしながら問いを返す。
「それは、どういう意味でございましょう?」
その瞬間、つと視線が逸らされる。
小さく呟く声。
だが聞き取れない。
「主上?」
「いや。……ここは、堯天に降りてきた時の隠れ家の一つとして、割と重宝してきた場所なんだがな。
急に佳玉――ここの楼主が、『今までの房室代をよこせ』と言いだした」
私はそっと眉を寄せた。
話が見えない。
「『金はいらぬ。そのかわり、こちらのいう事を聞け』と」
零れたため息に、こめかみの紅髪が一房、はらりと落ちた。
「一つは、『いいように着飾らせろ』と。
全く――女官達といいここの女達といい、どうしてそうも人の格好を構いたがるのか」
外見に無頓着な主は、心底分からないというように呟かれた。
手元に宝玉があれば、磨いてみたくなるのが人情だ。
しかしその考えを、ご本人だけはいつまで経っても理解なさらない。
「成程。して、もう一つは?」
やや柔らかくなった口調で問えば、途端に主上は口ごもられた。
「主上?」
「――もう、一つは……」
「――その……『花娘として、客を取れ』と」
脳裏が、白く焼き切れた。
――何と、いう事を。
身分を隠しているとはいえ、一国の女王に対し……この方に対し、何という事を。
噴き上がる怒りに、眩暈を起こしそうだった。
「即刻、捕えて参りましょう」
低く吐き出し、身を翻した瞬間。
「浩瀚!待て!」
「……待て。続きがある」
「主上、しかしっ!」
「女将は言ったんだ。
『花娘としてここで一夜、客を取れ。見知らぬ男が嫌なら―――自分で男を呼べ』と。
……だから、」
「だから、浩瀚、私は」