『蘭筆乱文』の饒筆様のところで踏んだ555のキリ番リクエスト作品です。
リクは、『閣下を誘惑する(しようとする)陽子主上を、ギャグorラブコメ風味で』。
結果、こんな可愛い陽子主上が出来上がって来ました!
我がリクエストに一片の悔いなし……っ!
こんな天然の誘惑かけられたら、そりゃ閣下もイチコロでしょうね。
饒筆様、ありがとうございました!
それは確かにタマラナイ
宴席の定番、王様遊戯(げーむ)。
この際本物の王様など関係無く、箸のクジで決まった王様の一回限りの命令に、全ての参加者が従わなければならない、というお遊びなのだが。
「王」と書かれた箸を引いたのは桓魋だった。さっそく命令を下す。
「二番が・・・」
「えええっ!!」
「二」と書かれた箸を握り、陽子が声をあげる。
「五番に・・・」
「!」
浩瀚の眉が上がる。その膝の上には、「五」と書かれた箸。
それらを確認し、桓魋がニヤリと笑う。
「キス!!!」
うおおおおおぉ!!!!
宴席が一気に盛り上がった。
「い、いけません、主上!! なんなら私が・・・」
割って入ろうとする景麒を、太師の裏拳が仕留める。(恐るべし!)
――こんなにオイシイ見世物を、邪魔されて堪りますかのう。
ほっほっほ。
白目を剥いて倒れる麒麟を、芥湖が慌てて介抱する。(憐れなり)
『キースッ! キースッ!』
当事者以外は、やんやの接吻コールである。(この酔漢どもめ)
「ぜ、絶対嫌だ!!!」
陽子が負けじと言い返した。
――だって、ファーストキスなんだぞ?!
蓬莱に居た頃は、女子高の真面目な優等生だった。もちろんキスなんかしたことがない。そして常世に強制連行されてからは、まさに日々が波乱の連続だったし、その中に恋愛だのお色気だのが混じる余地など無かった。
死守するつもりではなかったが、なんとなく守ってきたファーストキス。それを、こんな宴席の戯れ事で捨ててなるものか!
浩瀚が冷静に助言した。
「主上。桓魋はどこに、と申しておりませんよ。手でよろしいではありませんか」
「・・・あ、なるほど」
『却下!!!』
野次馬全員の声が唱和した。
「キスって言やあ、口と口でしょうが!! 駄目ですよ、そんなゴマカシは!」
「示しがつきませんぞ! 最初にこの遊戯(げーむ)の規則(るーる)を承諾して参加なされたのじゃから、よもや王に二言はありますまい!」
「俺は腹踊りをやったし、鈴だって‘ばにーちゃん’にされているんだぞ?! 陽子だけ逃げるなんてズルイじゃねえか!」
虎嘯が、ゲジゲジ眉毛の親父顔を描かれた腹を見せる。うさ耳やらレオタードやら網タイツやら(全て遠甫が用意していた)を着せられた鈴が、改めて赤面した。(鼻血を噴くほどカワイイ)
「で、でもっ・・・」
轟々たる非難の嵐に、陽子の声が消える。
た、確かに私も、さっきまで野次馬として大笑いしていたけれど。でも・・・いやいや、ここで引き下がって王としての面子を失ってもいいのか。だけど・・・ああ「ファーストキスだから嫌だ」なんて激白する訳にもいかないよ!
助けを求め、ちらりと浩瀚を盗み見れば。奴はただ、にっこり微笑み返すだけ。
――野郎・・・これ以上助ける気は無いな・・・。
そして陽子が出した結論は。
「頬ならいいだろう、頬にキスなら! 文句あるか!!」
玉虫色の決着(しかも脅し付き)である。政治家の常套手段だ。誰も傷つかない。が、誰も納得しない。
『え~~~~~っ』
部屋に充満するブーイングを無視し、陽子が浩瀚の隣に座る。
琥珀の目を向けられて。うう・・・緊張してきた。
気にするな、私。頬ならノーカウントだ。断じてファーストキスじゃない。アメリカ人なら毎朝の挨拶さ。さあ、サッサと済ませよう。
冷や汗をかきつつ自分を宥める陽子を眺め、浩瀚がくつくつ笑う。
しかも、笑いながら殊勝に頭を下げやがった。
「主上、よろしくお願いいたします」
――くそぉ~!! なんでコイツにまでからかわれなきゃならないんだよっ!!
罰ゲームを受けているのは私だけじゃん!! (その通り)
腹立ち紛れに、えいやっと目を瞑った。前傾しようとして・・・突如、顎に指を添えられる。そのまま、くいっと持ち上げられて、唇が重なった。
――!!!!!
陽子が眼を剥いて硬直する。
おお~っと歓声があがる。
「天晴れじゃのう~」
「漢(おとこ)です、閣下!」(バカばっかり)
しかし、ちょいと長くないか。
誰もが胸中でツッコミ始めた頃、ようやく金縛り状態から立ち直った陽子が浩瀚を突き飛ばした。鬼気を漂わせ、ゆらりと立ち上がる。俯いた顔は、耳や首まで真っ赤。握力の限界まで握った両拳が、煮えたぎる怒りで震えている。
――「ぐー」で殴られるわね。
――アッパーカットかストレートか・・・一発では済まないな。
それもまた見モノだと野次馬たちがワクワク見守る中、陽子が顔をあげた。
――えっ・・・?!
涙が滲む双眸は、大きくつぶらで揺れていて。きゅっと絞った紅唇が、今にも崩れそうな感情を必死で堪えている。威風堂々の王でも、勇猛果敢な若武者でもない。ただの可憐な「女の子」がそこに居る。
――か、可愛い・・・!!
野郎どもの理性がグラリと揺れる。男前すぎる普段との落差が、さらに下心をそそる。
陽子を凝視していた浩瀚の目が、すっと細くなった。(ロックオン!)
「ば・・・ばかあっ!!」
陽子はぎゅっと目を瞑って叫び、踵を返して駆けだす。
そして袖で涙を拭う。
――浩瀚のバカ! 一生に一度のファーストキスだったのにぃ!!
「主上! お待ちを」
糸で引かれるように、浩瀚がするりと立ち上がって陽子の後を追う。(逃がしやしない)
「来るなっ! おまえなんかキライだぁ~!!」
駆け足で遠ざかる二つの足音。時折聞こえる、なんだか甘えた罵声。
「やだ! もう許さないっ!」
「だから、来るなってばあ!」
「うぅ~だって、ヒドすぎるだろ~。放せよぉ~!」(捕獲されました! 大ピンチ!)
声もなく見送る一同の耳に、太師の落ち着き払った一言が響いた。
「ごちそうさま、じゃのう」
全員が無言で大きく頷く。
そして、残る面々で続けた宴会は、どうも締まらないのだった。
<了>