注:
性的表現がございます。自己責任でご覧下さい。

聖域



白い柔肌は、触れればどこまでも沈み込みそうな感覚がした。
だが一方で、確かな筋力の存在も感じ、普段忘れがちではあるが、彼女も戦う女なのだということを彷彿とさせた。
女の放つ甘い香りを堪能しながら、男は柔らかな肢体に身を埋めた……。

「君は不思議な人だな、烈」

単衣を纏った卯ノ花は、髪を梳く手を止めゆっくりと振り向いた。
臥所に肘をつき半身を起こした藍染が、こちらを見ていた。

「何が、でございますか?」

微かに首を傾げて問い返す。
清楚な色香を含んだその姿に、藍染は微笑んだ。

「君の本音というのは、何処にあるのだろうね?」

護廷十三隊の一、四番隊隊長・卯ノ花烈。
穏やかな物腰と慈愛に満ちた包容力をもつ、護廷随一の癒し手。
『所詮補給部隊』と四番隊をけなす者が多い一方で、そんな彼女に秘かに懸想する死神も多い。
だが、藍染が彼女に惹かれたのは、そのせいではなかった。

小さく開いた障子の間から入り込んだ風に、灯明の明かりがふわりと揺れる。
それに合わせるように、卯ノ花の口元に淡い微笑が浮かんだ。

「……それは、私の言葉ですわ」

白い指が目前に迫り、藍染の眼鏡をするりと外した。

「この伊達眼鏡で……貴方はご自分の中の何を隠しておられますの?」

覗き込んでくる黒目がちの瞳は優しく、その肢体と同様、どこまでも深く柔らかく藍染を受け止めてくれる様だった。

だがそれは幻想だ。

彼女の慈愛に満ちた心の底に、固く侵しがたい領域があることに、藍染は気付いていた。
卯ノ花は他人がそこに立ち入る事をさりげなく、だが確固として拒絶する。
恐らく他者が気付いていないだろうその領域の存在が分かるのは、彼もまた同類だからだ。

何者にも触れさせぬ、絶対領域。
彼女の『そこ』には、何が隠されているのだろう?

藍染が惹かれて止まぬもの――それは、白く明るい彼女の印象の中に時折混じる、深い闇の気配、だった。

「……さあ。烈は何だと思う?」

藍染は口の端を微かに上げて、卯ノ花が握った眼鏡へと手を伸ばした。

「きっと、とても恐ろしい事ですわね」

笑みを絶やさぬままに返された言葉は、彼女もまた藍染の中の『それ』に気付いていることを窺わせた。
藍染は、眼鏡を持った卯ノ花の手をぐいっと引き寄せた。

「惣右介どのっ……!」

姿勢を崩した卯ノ花が、彼の懐に倒れ込む。
壁に映った二人の影が、大きく揺れた。

「烈に、隠し事は出来ないな」

後ろから抱きすくめてそう言うと、藍染は単衣の合わせ目に手を差し入れた。

「……あっ……!」
「だが、僕にも烈の隠し事が分かる」

ゆっくりと手を動かしながら、藍染は卯ノ花の耳朶に息を吹きかけるようにして、囁いた。

「まだ、あれだけでは満足していないだろう?」
「……そんな、こと、は……」

ゆるゆると首を振る卯ノ花の身体は、言葉とは裏腹に再び熱を持ち始めていた。

「嘘は分かると言っただろう?」

袷を広げ、あらわになった胸の頂きを口に含む。
背をしならせ一際高く啼いた卯ノ花の声に、藍染の身体も熱を帯びる。

いずれ来る訣別の時。
その時に、自分の造反に最初に気付くのは、総隊長でも、懸念している八番や十三番の隊長でもなく。

同類である彼女かもしれない。

――それもまた一興というもの。

着実に女を追い詰める藍染の片頬に、冷徹な笑みが浮かんで消え……やがて再び女の身体へとのめりこんでいった。




                                                                         <終>


                                                                     2008.01.25


 

go page top