百年経っても始まらない恋もあれば、出会った瞬間に火がつく恋もある――。

どこの、誰が言いやがった台詞だったか。
奴らを見た途端頭を掠めたその言葉を、オレは苦々しく噛み締めた……。

馬鹿でかい斬魂刀を携えて現れた、人間のガキ。
そいつに向かって、何故追って来たのだとなじった、あいつの表情。
何かを押さえ込んだようなその表情を、かつて一度だけ見たことがあった。

十三番隊の副隊長。
妻と話すその男の後ろ姿を、あいつは同じ目で見つめていた。

――こいつが、ルキアから力を奪った人間だ。

見た瞬間に、そう悟った。
そして、ルキアが尸魂界ソウルソサエティに帰って来なかった理由も。

ぎりっと、どこかで不快な音がした。

――あんた、いつまでこいつを支配するつもりだ。

心の中で、既に存在しない男に向かって、吐き捨てる。
あんたは死んだのに。
何故またあんたにそっくりな奴を、こいつに会わせる?
そうまでして、こいつに自分を刻みつけたいのか?

ぎりっと、また音がした。

それが奥歯を噛み締める音だと、オレはようやく気付いた。

出会った瞬間に火がつく感情。

オレはそれをよく知っている。

だが、出会った瞬間に火がつく恋を、オレは知らない。




                                                                           <終>


                                                                      2008.07.10

 

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