08隊長お誕生日SSS
ありふれていて、特別な……
布団から出て、障子を開け、深呼吸を一つ。
その日は、普段と何ひとつ変わらぬ始まり方をする―――。
***
雲一つなく晴れ渡った、蒼穹。
(空気は痺れるほど冷てぇが、この冬の晴れた朝の空気が、俺は好きだ)
朝食の後に摘んだ、甘納豆。
(昨日、桃が重箱で届けに来たもんだ。手作りらしいが、だんだん婆ちゃんの味に似てきた)
ぱりっと糊の効いた、羽織。
(服装にこだわりなんぞ無ぇが、これだけは譲れねぇと思う)
雪をその葉に乗せた、庭の南天。
(数日前に積もった雪の名残)
磨き上げられた廊下。
(鏡みてぇに黒光りする様は、いつ見ても気持ちがいい)
すれ違う隊員達の、はきはきとした挨拶。
(贔屓目無しに、ウチはいい隊だ)
そして。
執務室の扉を開けた途端視界に入る、部下の艶やかな笑顔。
「隊長、おはようございます。それと、お誕生日おめでとうございます」
「………おう」
「今日のお昼は、隊長の好きな瓢庵の松花堂弁当取りますからねー」
「おう」
機嫌よく笑う松本の髪は、差し込む光の加減か、いつも以上にきらきらと綺麗で。
俺は思わず頬が緩む。
何ひとついつもと変わらぬようでいて、その実、こんな些細な事共に幸せを感じる、 そんな、誕生日。
<終>
2008.12.25